天沼の家
2012年
1階にアトリエを持つ木造3階建の住宅である。古い木造住宅が建っていた約50坪の敷地をほぼ2等分し、約25坪の土地に住宅を建てることが許され、敷地分割線の設定は設計者に委ねられた。ただし、接道2.5mの旗竿地とすることが条件であった。しかし旗竿地の「竿」の部分の幅が全て2.5mでは、そこに充分な居住スペースは望めない。そのため接道長さは2.5mとして、奥へと広がる敷地形状を提案したところ認められた。
残り半分の土地に建つ隣家の平面形状に斜め部分はないであろうし、高度地区の斜線制限も考えれば、この隣家は南側に寄せられ、こちらの「竿地」の南側は駐車場になると予測した。道路に向かって広がる駐車場の利便性は高いと思われ、この敷地形状は双方にとって有益であろうと考えた。
実際、隣家の位置形状は予想通りになり、西側の道路からは充分過ぎる程の採光が確保できたが残りの面は全て隣家に近接することとなった。そこで、続く第一の課題は西側道路からの光を敷地奥まで導くこと、第二は残りの方角からの採光確保、となった。
第一の課題に対しては、チューブを折り曲げて旗竿地に収めるような空間構成を考えた。HP形状の捻れた壁によって光は乱反射し、チューブ内にいきわたる。
建て込んだ住宅地であっても、敷地境界線上には塀の他、何も建っていない。まして上空には何も無い。そこで第二の課題に対しては、それぞれの時刻、それぞれの敷地境界線沿いに流れ込む光を取り入れる窓を配し、階段吹抜上には天窓を設けた。2階和室の特徴的な窓は、隣家同士の敷地境界線上、3階より上の日光を取り込む仕掛けであり、エキスパンドメタルの階段を通過した天窓からの日光は直接1階へと届く。
狭いながらも明るい家が完成した。諸々の条件を複合的に解決した結果、様々な形態と空間を内包する家が実現したことを強調したい。
(新建築住宅特集 2013年2月号掲載)
(彰国社「ディテール特集号・住宅の階段」
2014年5月掲載)
DATA
所在地 / 東京都杉並区天沼
規模構造 /木造、3階建て
主要用途 / 専用住宅
敷地面積 / 82.91㎡(25.12坪)
建築面積 / 49.70㎡
延床面積 / 122.38㎡(37.08坪)
設計担当/ 池村潤、池村毅、杉原香菜(設計協力)
施工 / 建築舎四季株式会社