森へのパノラマ
2025年
軽井沢中心部、標高約1,000mの森林に囲まれた敷地における別荘の建て替え計画である。この地には35年前、施主の祖父母が建てた別荘があった。長年にわたり家族の思い出を育んできたこの場所に、施主は新たにセカンドハウスを計画した。東京と軽井沢を行き来するリモートワークの拠点として、また将来的には三世代が集う場として。
敷地は北側で接道し、南側には森林と浅間山麓の街並みを見渡す絶景が広がる一方で、傾斜地という制約を持つ。さらにこの地には厳格な景観条例が存在し、特に隣地斜線制限が家型(方形あるいは切妻屋根)の採用をほぼ義務づけている。
「賑やかな都会からのエスケープ」「自然との調和」「大人数で楽しめる開放的な空間」—施主のこうした要望に応えながら、傾斜地という制約、条例という規制をいかに創造的に転換するかが本計画の主題となった。
条例が誘導する家型を、南北方向に極限まで「引き伸ばし」、真ん中で「切断」する。この明快な形態操作によって、相反する二つの要求を同時に満たした。
北側(道路側)には周辺と調和する家型のシルエットが現れ、景観の連続性を保つ。
一方、南側(森林側)には全面開口の大きなガラス面が現れ、室内と森が一体化する。規制そのものを建築的価値の源泉へと反転させる設計思想である。
結果として生まれた大屋根は、天井が「ギャラリーから南側の大開口に向かって空に伸びていく」ような開放感を生み出すと同時に、深さ3mの軒を南側に形成し、春分・秋分を境界として室内への日射を制御する環境装置としても機能する。
傾斜地という制約は、「マイナスではなくプラスに」という施主の言葉通り、地下階と1階という垂直的な空間構成を導き、森への多様な視点を生み出す装置となった。
この大屋根と深い軒と大開口は、窓フレーム自体をトラス構造とし、このトラス構造にV字型の鉄骨母屋を支持させる総合的な構造解決によって可能となった。大開口のスパンは約10mに及ぶ。
天井高4.5mの吹き抜けを持つLDKでは、「大人数でそれぞれが思い思いに過ごせる空間」が実現されている。建築が「額縁」として機能し、南側全面の開口部を通じて、四季が織りなす景色が、変化し続ける一枚の風景画のように楽しめる。
森を見渡す確固とした視座、季節の変化を全身で感じる空間体験、日光の反射が生み出す時間の可視化—これらは、人間が情報としてではなく身体として世界に存在することの価値を、建築を通じて再発見させる。
35年前の祖父母の別荘から継承された暖炉という「記憶の継承」は、この建築が単なる機能的な空間ではなく、三世代にわたる家族の物語を紡ぐ場所であることを示している。リモートワークの普及により、別荘は「たまに訪れる場所」から「もうひとつの生活拠点」へと変化している。現代における「別荘」の意味の変容を体現しながら、同時に世代を超えた記憶を継承することで、別荘建築はセカンドハウスとして生まれ変わった。
内装は「自然とモダンなデザインの調和」という施主の意図のもと、グレーを基調とした統一感のある構成となった。
形態と一体化した環境制御は、フラット35の基準を満たしている。
「制約を創造性の源泉に転換する」方法論が、施主の明確なビジョンと高い次元で共鳴することで、別荘建築の新たな進化の可能性をしめせたと考えている。
DATA
所在地 / 長野県北佐久郡軽井沢町
規模構造 /木造、一部鉄筋コンクリート造)
主要用途 / 専用住宅
敷地面積/ 1160.25㎡
建築面積 / 226.50㎡
延床面積 / 206.06㎡
設計担当/ 池村潤

ギャラリー

世代を超えて引き継がれた暖炉

形態生成のプロセス

外光を内部へと導く天井の様子

平面図

立面図と断面図

森へのパノラマ

ウッドデッキ

リビング全景

道路からの全景、町の条例が求める家型のフォルムとなっている

森からの全景
